
リモートワークは、通勤負担の軽減、災害やパンデミック時でも事業を継続できるなどメリットがあります。一方、リモートワークを導入した企業の多くがコミュニケーション不足や、それに起因する課題に悩んでいます。特に中小企業は、少ない予算の中でこうした課題を解決しなければならないでしょう。
そこでこの記事では、主に中小企業におけるリモートワークのコミュニケーション方法について、以下の点を解説します。
- リモートワークに関する一般的な課題と解決方法
- 費用対効果の高いツール3選
- 最小限のツールで社内のコミュニケーション不足を解消するステップ
- 顧客とのリモートコミュニケーションも円滑にする方法
私自身も、ある小さな会社でリモートワークをしており、コミュニケーションにおける課題や問題点、解決方法の模索などを経験しています。本記事では、こうした経験に基づき解説しています。この記事を読めば、少ない予算でも効率的で円滑なコミュニケーションを実現でき、中小企業ならではの強みとリモートワークのメリットを生かした業務体制を作る方法が分かるでしょう。
リモートワークにおける一般的なコミュニケーション課題
リモートワークは「コミュニケーションが滞りやすい」というデメリットが指摘されています。でも、なぜリモートではコミュニケーションが滞りやすいのでしょうか? まずは、その一般的な原因や課題を紹介します。
課題①:雑談の減少と孤独感の増大
オフィスでは自然と雑談をしますが、リモート環境下では雑談が無くなり業務連絡に偏ってしまいます。その結果、従業員は孤独感や不安を感じやすくなり、モチベーションの低下や離職につながりやすくなります。
課題②:進捗状況の把握が困難になる
リモート環境では互いの作業状況が直接見えないため、上司は部下の進捗を把握しにくくなります。結果として、問題の早期発見が難しくなります。
課題③:ミスコミュニケーションが起こりやすい
リモートでは、テキストでのコミュニケーションが中心となります。そのため、表情や声のトーンといった非言語情報が伝わらず、意図の読み違いや誤解が生じやすくなります。そこで、最適なルールの策定や導入、コミュニケーションの取り方に関する指針の作成、意識的に雑談の機会を作るなどの工夫が必要です。
中小企業で特に課題となりやすい点
中小企業では、ITに関する設備、人手、また予算も限られるという制約があります。そこで、リモート環境を整えるには、以下の点を特に重視していく必要があります。
次のセクション以降で、こうした点を具体的に解説していきます。
コミュニケーションツールはこの3つあれば十分!
リモートワークには、コミュニケーション用のツールが不可欠です。ところが、中小企業ではツールに以下のような課題があります。
そこで、「これさえあればコミュニケーションは十分できる」というツールに絞って導入するのが現実的です。こうしたツールの多くは、いくらか機能制限はありますが無料でも十分使えるものが少なくありません。そこでいきなり有料契約せず、まずは無料で使ってみましょう。使ってみて問題が出たら有料契約をする、あるいは他のツールに乗り換えるなどの判断を行えば良いでしょう。
以下に「これさえあればOK!」というツールを3つご紹介します。
ツール①:チャット
リモートワークではメールではなく、チャットでのコミュニケーションを基本にするのが一番現実的です。実際、多くの企業がそのようにしています。なぜなら、リアルタイムでメッセージを確認でき、気軽にちょっとした相談や雑談をするのに向いているからです。
有名なチャットツールとしては、チャットワーク、Slackなどがあります。機能制限はありますが、いずれも無料で使えますのでまずは試してみましょう。
ツール②:Web会議システム
チャットでは難しい複雑な説明、打ち合わせなどはWeb会議システムを使います。テキストだけでは分かりにくいニュアンスなどを、相手の表情や声のトーンなどから汲みとりやすいというメリットもあります。
Zoom、Google Meetなどのツールが定番です。無料では時間制限などの機能制限がありますが、社内で短時間の打ち合わせを行うには十分使えます。
尚、勤務中は常にWeb会議システムを起動し、社員にはカメラONを義務付けている会社もあります。出社と同じような環境にしたい、サボりを防止したいなどの意図があるのかも知れませんが、あまり現実的な方法ではありません。なぜなら、常にWeb会議システムを起動しておくとパソコンに余計な負荷をかけ、パソコンの処理速度(=作業スピード)を低下させることになるからです。また、社員に常に緊張を与えるなど、心理的にも悪影響があります。サボり防止は、他の方法で仕組み化しましょう。この点に関しては、記事も併せてお読みください。
ツール③:クラウドストレージによる情報共有
Web会議での議事録、マニュアル、営業資料、その他の情報を保存・共有できるようにしておく必要もあります。そこで、クラウドストレージを活用しましょう。
ツールとしては、Googleドライブが間違いないでしょう。無料で15GBの容量がありますので、動画などの重たいファイルでなければ十分な容量があります。また文書、表計算、スライドなどの作成も無料で可能ですし、カレンダーなど他のツールも豊富です。正直、「Googleドライブ無しでリモートワークは無謀」とさえ思えるほど充実しています。
ツールを揃えただけでは不十分です
必要なツールをそろえたら、それだけでリモートワークのコミュニケーションが円滑になるわけではありません。ツールはその名の通り「道具」でしかないからです。ツールは使いこなしてこそ真価を発揮します。
ツールを使いこなすためには、会社としての運用体制をどう作るかがポイントです。しかも、中小企業でも負荷の少ない、現実的な運用体制を作る必要があります
そこで、次のセクション以降では円滑なコミュニケーションを実現するために取り組むべきポイント、ルールや仕組みなど、具体的な運用体制の作り方をステップごとに解説していきます。
ステップ①:IT機器やツールの「使いこなし力」の差を少なくする
IT機器やツールを使いこなせるかどうかは、人によってどうしても差があります。しかし、「コミュニケーションツールが使いこなせない」、「機器を上手く操作できない」といった状況を放置しておくと、リモートワークでは即生産性低下につながります。特に中小企業では、ITに詳しい人が少ないですので、社員一人ひとりが上手に使えるようになることが大切です。
シンプルで直感的に使えるツールを選ぶ
多機能すぎるツールは避け、なるべく直感的に使えるものを選びましょう。
また、導入時には操作手順をFAQ形式でまとめておくと、質問や回答にかかる時間や労力を削減できます。FAQを作る余裕がなければ、ひとまず操作方法を動画で撮影しておくだけでも良いでしょう。
コミュニケーションスキルの教育
チャットなどの文字コミュニケーションでは、感情が伝わりにくいという課題があります。そこで、リモートワークにおけるコミュニケーションスキルを向上させるため、以下の点を教育したり、研修で伝えたりすることも大切です。
教える際は、なるべく具体的な表現例や、絵文字を使った場合と使わなかった場合の比較なども見せると良いでしょう。
ステップ②:コミュニケーションのルールを決める
「リモートワークではコミュニケーションが滞りやすい」とはいえ、闇雲にコミュニケーションを取ろうとすると混乱や社員の心理的負荷を増やすことになりかねません。そこで、コミュニケーション方法に関するルールを作りましょう。「そんなことまで決めなければならないのか?」と思うかも知れませんが、とても大切な点です。
「即レス」を求めない
チャットはリアルタイムでメッセージがやり取りできるとはいえ、即座の返信(即レス)が当たり前だという雰囲気を作ってしまうと、社員に過度なプレッシャーを与えてしまいます。「それじゃチャットの意味がないじゃないか!」と思われるかも知れませんが、相手の状況が見えないからこそ配慮が必要です。
このように、相手がすぐに返信できる状況にあるとは限りませんので、「即レス」を求めないようなルールが不可欠です。
緊急度や状況に応じたコミュニケーション方法を決めておく
その時の緊急度、状況に応じてどのような方法でコミュニケーションをとるかもルール化しておきましょう。以下はその例です。
- 日常の連絡や簡単な質問はチャット
- 複雑な打ち合わせはWeb会議
- 緊急性が高い案件(システムトラブル、事故など)は電話
- 災害時は、その時に使えるあらゆる方法で連絡可
また、チャットも案件や目的別に応じて、チャンネルを分けておくと良いでしょう。以下はその例です。
休日の連絡に関するルール化
緊急を要する内容でもないのに、休日に連絡を取るのはモラル的に良いことではありませんし、「折角の休みを妨害された」と不愉快に感じる人もいるでしょう。そこで、休日や業務時間外の連絡は、相当な緊急時を除き禁止にするなどのルールも明文化しておきましょう。
また、休暇を取っている人への連絡方法についてもルール化をしておくと良いでしょう。以下はその例です。
ステップ③:特定の個人だけが持つ情報やノウハウを社内で共有する
少人数の中小企業では、特定の社員に情報やノウハウが集中しがちです。例えば、仕事のできる社員、在籍年数の長い社員や管理職が挙げられるでしょう。こうした人たちには「これってどうすれば良いですか?」といった問い合わせが頻繁に起ります。しかも、色々な人から同じようなことを聞かれ、その都度同じことを答えるのは時間や労力の無駄ですし、本来業務がなかなか進みません。
そこで、特定の社員が持つ業務上の情報やノウハウを社内で共有する仕組みを構築することで、無駄な問い合わせを減らしていくことができます。リモートワークでもスムーズに業務が進むだけでなく、ノウハウを持つ社員が突然休んだ場合や、突然の退職でも困らない、あるいは引き継がスムーズに行えるなどのメリットもあります。
マニュアル化で情報やノウハウを蓄積・管理
特定の社員が持つノウハウを蓄積し、管理していく方法の一つとしてマニュアル作成があります。「あの資料はどこにある?」といった些細な疑問点もマニュアルに反映していきます。
マニュアルを充実させていけば、経験の少ない社員でもどのように業務を進めてればよいのかがハッキリするので不安を抱かずに済むでしょう。
マニュアルの作成手順
いきなり全ての業務をマニュアル化するのは現実的ではありません。そこで、以下のような手順で進めていくと良いでしょう。
- 優先的にマニュアル化する業務などを決める。
- 具体的な内容をヒアリングしたり、業務の進め方を動画に撮影したりする。
- ヒアリングや動画の内容からマニュアルを作成していく。
- 実際にマニュアルを見ながら作業などを行い、分かりやすいか、情報の漏れが無いかなどを検証。
- 必要に応じてマニュアルを修正する。
- 定期的にマニュアルを見直し、更新していく。
マニュアル化する業務は、例えば経費精算、ツールの使い方など問い合わせの多いものから始めると良いでしょう。
ステップ④:ハイブリッドワークでの心理的距離や情報格差を解消する
中小企業でも、出社とリモートを組み合わせる「ハイブリッドワーク」を導入していることもあるでしょう。ところがハイブリッドワークには、「出社組とリモート組との間に心理的距離間や情報格差が生じやすい」という問題点があります。こうした問題を放置すると、チームの一体感や参加意欲を低下させかねません。そこで、出社組とリモート組との差を埋めるようなコミュニケーション方法を取り入れます。
社内会議の進め方をルール化
ハイブリッド会議では、例えば高価なカメラや、360度集音できるマイクなどの導入が推奨されることもあります。しかし、中小企業にはそうした設備投資をする余裕がないということもあるでしょう。そこで、今ある設備を使いながら、リモート組も参加しやすい会議体制にします。
出社組も「リモート参加」する
出社組もそれぞれ自分のPCでZOOMなどに入り、カメラもオンにします。そして、チャットや資料もPC画面上で確認できるようにします。
こうすることで、出社している人だけで話が進む状況を防ぎ、全員が同じ立場で発言や共有できる環境を簡単に作れます。
発言する際の「手挙げルール」を決める
例えば、ZOOMには「手を挙げる」機能があります。出社組も、発言する際は「手を挙げる」機能を使うようにルール化します。あるいは、参加人数が少なければカメラに映るように「実際に手を挙げる」でも構いません。
いずれにしても、出社組だけが一方的に発言するのでなく、リモート組も公平に発言できるようルールを作っておきます。
司会者が意識的にリモート組の意見を聞く
会議の司会者は発言のバランスも見ながら、「○○さんは今の件どう思いますか?」などと問いかけ意識的にリモート参加者の意見を聞くようにします。
こうすることで、リモート組が置き去りにされず、出社組の意見に偏ることも防げます。結果として、リモート組にも納得感のある意思決定ができます。
議事録や決定事項はクラウドで共有
議事録は紙ではなく、クラウド上で作成します。
例えば、Googleドキュメントは複数の人がリアルタイムで編集・閲覧ができるので、会議中のメモを全員で追うことができます。こうすることで、話の流れを全員がリアルタイムで理解でき、リモート参加者も会話についていきやすくなります。決定事項、保留の事項、担当者と期限もその場で書き込んで整理していくことができます。
また、クラウド上にリアルタイムで議事録を作成してしまえば、情報の抜け漏れも防ぐことができます。しかも、会議終了後に即座に全員で同じ情報を共有できるといったメリットもあります。
貴重な出社日の生かし方
貴重な出社日には、リモートでは難しいことを話し合ったり、伝えたりすることも意識してみましょう。
雑談や非業務的な会話を意識的に増やす
リモートでは雑談が減りやすく、信頼関係が希薄になりがちです。出社日はあえて「業務以外の話」を意識して取り入れることで、心理的距離が縮まりチームの一体感を戻すことができます。
対面でのディスカッション・アイデア出し
リモートでは議論が深まりにくいアイディア出しや感情を伴う話などは、出社時の方が表情や声のトーンなどの言語外の情報が伝わり、意思疎通がスムーズになります。
感謝や成果を積極的に伝える
「先週の案件、サポートありがとう」、「このアイデア、すごく助かったよ」といった声がけを、出社日には積極的に行いましょう。リモートではこうした声がけが減りがちですし、チャットなどのテキストで伝えるよりも、対面で伝えた方がモチベーション向上に大きく影響します。
ステップ⑤:リモートミーティングで顧客との信頼関係を築く方法
リモートで顧客と打ち合わせをする機会も増えています。ところが、画面越しでは心理的距離感がある、感情が伝わりにくいなど、リアル対面よりも感じ方や印象が異なってきます。そこで、リモートで顧客との信頼関係を築くための工夫が欠かせません。以下にそのポイントを解説します。
目的や議題を明確にする
目的の分からない「ただ顔を合わせるだけ」のミーティングや、何も決まらず時間だけがダラダラと過ぎていくミーティングを好む人はそう多くはありません。むしろ顧客は「ミーティングの時間を有意義に使ってくれる会社」を信頼します。そこで、話し合う内容や目的が明確であるなど、意義のあるミーティングとなるよう以下の点に取り組んでみましょう。
- 事前に議題(アジェンダ)を共有する。
- ミーティングの冒頭でゴールを確認し、終盤で次のステップを明確にする。
- ミーティングの要点や決めたことなどを速やかに共有する。
尚、顧客に議題や会議で取り決めたことを伝える場合は、曖昧な表現を避ける、要点を箇条書きでまとめるなど、分かりやすく誤解が生じないように書きましょう
「誠実さ」を言語以外でも伝える
リモートミーティングでは、言葉以外の部分で意識的に「誠実に対応してくれそう」、「丁寧な会社だ」といった印象を持ってもらう工夫が必要です。以下はそのポイントです。
- なるべく照明を明るくする。
- 背景にも気を遣う(シンプルな壁を背にするか、バーチャル背景などを使う)。
- カジュアルすぎず、清潔な服装をし「きちんと感」を出す。
- 音声チェックを事前に行う(雑音やエコーがあると印象を損ねやすい)。
- 会議で取り決めた事、約束したことは小さなことでもできるだけ速やかに実行する。
意識的にリアクションや共感を伝える
画面越しではこちらの相槌、反応などが伝わりにくくなります。そのため、リアル対面よりもリアクションや共感を意識的に伝えることが信頼構築に役立ちます。具体的なポイントは以下の通りです。
まとめ
- チャット、Web会議、クラウドストレージの基本的な3つのツールを導入すれば十分です。
- 誰でも使いこなせるシンプルなツール選び、コミュニケーションスキルの教育も行います。
- ツールの導入だけでなく、運用負荷の少ない仕組みやルール構築がコミュニケーション円滑化に欠かせません。
- 特定の社員への問い合わせ集中を防ぐためマニュアル化を進め、社内でノウハウを蓄積・共有しましょう。
- ハイブリッドワークでは出社組もPCからWeb会議に参加するなど、リモート組が置き去りにならないようにします。
- 出社日には雑談や対面でのアイデア出し、感謝を伝えるなどを意識的に行いましょう。
- 顧客とのリモートミーティングでは目的の明確化、清潔な服装や明るい照明、意識的なリアクションなど非言語でも「誠実さ」を伝え信頼を構築していきます。
「やることが思ったよりも地味だな」、「色々と決めることがあるな」と思われるかも知れません。しかし、リモートワークでの円滑なコミュニケーションを実現するためには、こうした地道な取り組みが成功のカギとなります。時間はかかるかも知れませんが、この記事で取り上げたポイントを着実に実行していくことで、中小企業ならではの強みとリモートワークのメリットを生かした体制を作っていきましょう。


